Top Page For Doctors For Patients Link Lists emphysema CT criteria Lecture

結核院内感染マニュアル


(1999.11.10更新)

結核院内発生届け出の様式(岐阜市民病院の例)

結核緊急事態宣言!!

結核感染対策用マスクの紹介

訪問者からのご意見


岐阜市民病院結核院内感染対策マニュアル(99年改訂版)

はじめに

 肺結核はかつては,死亡率の第1位を占め,大正7年には人口10万対257.1人であったが,戦後は順調に減少を続けていたが,平成9年にはじめて上昇に転じた.近年,老人保健施設,病院での結核集団発生,医師看護婦など医療従事者の結核感染が報道されており,結核に対する認識不足が発見の遅延,集団感染の原因のひとつに考えられている.当院では結核患者の減少にともない,平成11年1月より結核病棟は廃止されたため,結核患者との接触の機会は大幅に低減した.しかし,本邦で結核が増加に転じたことは,どの診療科においても予期せず結核患者が発生することを意味している.また,若年者の大部分が未感染者であることから,医療従事者が患者から感染することも十分ありうる.以上の状況を鑑み,結核院内感染マニュアルを改訂した.

(1)感染様式

  結核の感染様式には飛沫感染と塵埃感染とがあるが,主たる感染様式は,専ら飛沫感染であり,排菌患者の咳やくしゃみによる飛沫中の結核菌を吸い込むことにより感染する.特に大量に排菌する患者に接する場合,接触がなくても会話したり,排菌患者が咳をしているときは数メートル以内にいるだけで感染の機会となりうるので,注意が必要である.免疫能が正常の健常者の場合,10〜20%程度が発病するといわれ,初期感染の発病時期は2年以内とされている.しかし若年者や免疫能の低下した高齢者では発病の頻度はさらに高くなる.特に,中高年者では,糖尿病,白血病等血液悪性疾患,術後,副腎皮質ステロイド剤投与,抗癌剤投与,腎透析といった免疫能の低下,全身状態の悪化等,抵抗力が減弱した際に,古い病巣内に生き残っていた結核菌が,再び増殖して発病することがある.また20才以策が重要である.一方,同様のことは,20才代の病院職員でも該当する.なお,欧米ではAIDS患者に肺結核が高率に発症して社会問題になっている.本邦では結核患者は減少傾向にあったものが,平成9年に上昇に転じた.今後さらにAIDS患者の増加が予想され,新たな結核対策が必要となっており,平成11年7月には厚生省が「結核緊急事態宣言」を発表している.第1表に結核発症の危険因子を示す.

第1表 結核の発症危険因子         


 a)ツ反陰性の若年者(小児・新卒職員では要注意)

 b)アルコール常習者,アルコール依存症

 c)担癌患者,大手術施行患者

 d)免疫不全状態(AIDS,ステロイド,化学療法中,糖尿病)

 e)生活の荒んだ人,規則正しい食生活をしていない人

 f)慢性呼吸器疾患(塵肺・肺気腫・慢性下気道感染症

         →局所感染防御機能の低下)

 g)高齢者(初感染ではなく,再発が多い)          

 


                           

(2)外来での対策

  呼吸器科以外の診療科においても,咳嗽,喀痰,発熱等がある場合は,胸部X線検査が必要である.第2表に結核を疑わせる症状を示した.これは,あくまで指標であり,同様の症状でも,肺癌,慢性呼吸器疾患2次感染症の可能性も否定できない.要は病院職員個々が「結核かもしれない」と疑う姿勢をもつことである.

   第2表 結核を疑わせる症状          


                           

 a)咳,痰がいつまでも続く(風邪なら一週間で治まるはず).

 b)微熱が続く(極端な高熱はなく,倦怠感).

 c)胸痛が右または左側に出現する(結核性胸膜炎の症状).                       


         

 上記の症状が認められ,かつ1週間以上症状が続けば,呼吸器専門医を受診すべきである.呼吸器科では上記の症状があれば必ず胸部X線写真を実施している.単に対象療法として,消炎鎮痛剤や去痰剤を用いるのみでは,一過性に症状が軽減しても結核が進行していることがあるので避けるべきである.医師も看護婦も安易に対症薬で治療するのでなく,呼吸器科医師の診察と胸部X線検査を受けるようにしたい.

 結核のX線所見の特徴は,肺炎様の浸潤影で,上肺野を中心(S1,S2,S6)に病巣が認められることが多く,特に病巣周囲の散布巣等が挙げられるが,さらに空洞,石灰化,リンパ節腫大などあらゆる型の所見を呈しうることである.何らかの所見があれば,胸部断層X線,胸部CT等さらに精査が必要である.同時に,結核が疑われる場合には喀痰検査,ツベルクリン反応,赤沈またはCRPの実施は必須である.喀痰検査は,結核菌塗抹,培養を行い,かつ,1回のみの検査では確実に排痰できていない場合があるので2〜3回続けて施行する.患者の中には「痰がでない」といって,検査に協力しない場合があるが,健常人でも1日あたりの気道分泌液量は100ml以上に達すること,そのほとんどは無意識に飲み込んでいるだけであることを十分に説明し,確実な喀痰検体を得ることが基本である.ツベルクリン反応は感染後2〜10週のアレルギー前期を経て陽転するが,BCGの普及した現在,初感染による陽転時期を知ることは困難になってきている.すくなくとも,感染から8週以内では,感染者でも陽性とならない場合があることを認識すべきである.

ツベルクリン反応の実際

 現在ツベルクリン反応検査に用いられているのは,精製ツベルクリン(PPD)で,通常は「一般診断用」(0.05μg/0.1ml,2.5TU相当)を使用する.他に「確定診断用」(0.5μg/0.1ml),「強反応者用」(0.01μ/0.1ml)もある.凍結乾燥したPPDを所定の溶液で溶解した後0.1mlを前膊内側に皮内注射し,48時間後に判定する.PPD溶液は失活しやすいので一度溶解したら2時間以内に使用すべきである.なお,従来はツ反を陰性・疑陽性・陽性として取り扱ってきたが,平成7年5月陰性・陽性として疑陽性判定は取りやめるよう申し合わせがなされている(第3表).

  第3表 新しいツベルクリン反応判定基準   


 反応            判定        符号

発赤の長径9mm以下      陰性        (-)

発赤の長径10mm以上      陽性(弱陽性)     (+)

発赤10mm以上及び硬結(+)   陽性(中等度陽性)   (++)

発赤10mm以上及び水泡・壊死 陽性(強陽性)    (+++)  


                            

 備考;発赤が10mm以上ともなれば通常は硬結も出現するものである.従って,原理的に「弱陽性」は極めてまれである.強陽性言い換えれば二重発赤をともなう反応は発赤が25mm程度以上の場合が普通である.まれに,それより小さい発赤径の反応で発赤に段差がみられ,ために二重発赤と判定される例もあるが,これは本来の強陽性として取り扱う必要はない.なお,二重発赤の場合の「発赤長径」とは外径の発赤の大きさをもって判定する.

 排菌が確認(塗抹陽性)されれば,隔離入院の必要があるが,この際,気管支内視鏡や上部消化管内視鏡を用いて検体を得た場合のガフキー1号〜2号は混入の可能性もあるので,胸部X線,ツベルクリン反応所見も合わせて判断する.なお,喀痰の結核菌培養結果は8週後に確認されるため,塗抹陰性でも活動性結核が疑われる時は,精密検査を行い,早期に診断する必要がある.当院呼吸器科では,塗抹陰性の肺結核疑い患者に対し,診断確定の一助にするため,気管支鏡を用いて,病巣部位の経気管支吸引採痰,経気管支細胞診検査時の同時塗抹検査,経気管支生検を施行している.また,遺伝子診断学の進歩により,結核のDNA診断が可能になってきている.当院では外注(SRL)によりPCR法を用いたDNA診断が採用されている.DNA診断の利点は,僅かの検体で診断可能なこと,いままで抗酸菌染色陽性というだけでは結核感染か非定型抗酸菌症か区別できなかったものが数日で区別できるようになった点である.しかし一方で,僅かでも結核菌が混入しただけで偽陽性となる場合があり,他の所見も含めて総合的に判断する.

 結核は法律で届け出が義務づけられた伝染病であるので,結核と診断した場合,2日以内に所轄保健所に結核発生届けをするとともに,結核治療を行なう場合には結核予防法に基づいて患者居住区の所属保健所に申請する必要がある.患者を隔離して入院治療を行う場合は結核予防法35条を,外来で通院治療する場合は結核予防法34条を申請する.この際,予防法申請用紙の胸部X線型分類は結核審査会で行なうので,主治医はX線のスケッチをするだけでよい.新しい結核治療指針では,胸部X線診断よりも,結核菌塗抹培養検査を重視することになったので,結核菌検査は必ず,治療前および治療開始後は毎月施行したい.結核発生届,結核予防法申請用紙にも結核菌検査の結果(検体の種類,塗抹染色か培養か,PCR法かなど)を詳しく記入した方がよい.厚生省通達で,結核予防法の申請が保健所に受理された後でなければ結核治療を行なってはならないことが再確認されているが,現実的には予防法申請と同時に治療を開始されている(申請から受理まで時間差があり,主治医が申請した日から許可されるような運用がなされている).

 当院では,法に基づいて届け出を行なうほか,当院における結核院内感染対策を円滑かつ確実に運用するため,

当院所定の結核院内発生届

を主治医が速やかに記載し届け出を行なうものものとする.この際,塗抹陽性なら,培養結果やPCR法の結果を待たず,速やかに第1報を届け出し,詳細報告は重複して後に報告するものとする.

 当院では先にも述べたように平成11年より結核病棟が廃止されたため,結核患者の入院治療は結核病棟のある病院に依頼する.結核の入院治療が可能な病院(結核病棟を有する病院)は,所轄保健所の保健予防課に問い合わせれば教えてもらえる.また,結核患者収容モデル事業が平成5年より実施されている.あらかじめ厚生省に申請して,通常は一般病床として使用し,結核患者が発生した際は,モデル事業実施区域のみ結核患者を収容できるような病棟の指定を受けることができる(結核病棟に準ずる感染防止設備が必要なため,申請基準に該当するよう改装工事が必要な場合が殆どである).喀痰塗抹でガフキー3号以上は命令入所の対象となり,結核予防法35条を申請することになるが,これらの申請は診療を担当する病院(医師)がおこなう.

(3)一般病棟,手術室における対策

  先に述べたごとく,抵抗力の減弱により肺結核を発病する確率は高く,これらの患者が入院する病棟においては,常に肺結核の発病に注意する必要がある.いずれにしても,肺結核が疑われれば,胸部X線とともに喀痰あるいは胃液等を検体として塗抹,培養検査をする必要があり,肺結核と診断され,活動性であれば,隔離入院を検討する.また小児病棟においては,排菌者が認められれば,排菌者を隔離(結核病棟のある病院に転院)するのはもとより,同室者も排菌していなくてもツベルクリン反応強陽性なら6ヵ月間のINH予防投与が公費負担で認められている(この際も結核予防法申請が必要).排菌者において合併症等で手術をせざるを得ない場合は,排菌者に術前,術後も確実に抗結核薬を投与するとともに,リネン類の取扱いに充分注意し,リネン類は消毒にまわし,身体はテゴー51液にて充分清拭し,義歯ははずし,口にマスクをかけさせ,手術室に移送する.手術室には,必ず排菌者であることを事前に連絡し,術者,麻酔医をはじめ,手術室のスタッフも,麻酔器,手術器具,術野布等の使用に注意し,術後の取扱い,消毒管理に手落ちがないように注意することが大切である.

(4)消毒法

  手指の消毒は基本的に水洗手洗いで充分といわれているが,患者の抵抗力の減弱による感染の機会があると考えられる場合は,万全を期して,7.5%イソジン液で1分以上よく洗い,その後充分に手洗いする.寝具は,80℃以上の熱湯消毒20分以上をおこなう(当院のリネンではこの基準で洗浄されている).チューブ,カテーテル等はできるだけ1回限りの使用としたほうがよい.再生使用する場合は,十分流水洗浄した後,EOG滅菌をおこなう.排菌患者が退室した後の病室はテゴー51液にて充分清拭する.カーテン,患者の使用したタオル等も80℃以上の熱湯消毒20分以上で十分である.UVライザー滅菌は結核に対して完全ではないが,MRSAの合併症例もあることから可能であれば実施する.

 気管支内視鏡,上部消化管内視鏡等は使用後,大量の流水で30分間一次洗浄後,2%のグルタラール溶液20分浸漬し乾燥する.人工呼吸器回路は,一定の洗浄後EOG滅菌もしくは低温プラズマ滅菌する.多数の患者に内視鏡検査を施行する時は,排菌者もしくは排菌疑い者に使用した検査器具は,完全に滅菌するまで使用せず,他の内視鏡を用いるか,排菌者の検査の順番を最後にする等の配慮が必要である.

(5)病院職員の結核検診について

 病院職員の結核感染,結核発症を防ぐために,病院職員は以下の点に留意されたい.

@年1回の胸部X線写真は必ず受けること.

 職場検診の胸部X線検査の目的の一つに肺結核発見がある.健常者でも無症状で肺結核を発症していることがあるので,X線検査は必ず受診したい.妊娠中および産褥期には結核になりやすいことから,少しでも呼吸器症状があれば出産後に胸部X線検査を実施しておくことが望ましい.

A新規採用者は既に強陽性のあるものを除きツベルクリン反応を行なう.陰性者のうち29歳以下ではBCG接種を行う.BCG接種を正しく1回実施すれば,その効果は10年以上持続すると考えられている.

B咳・痰・胸痛など呼吸器症状が発現した場合は,早期に呼吸器科または内科を受診する.

(6)まとめ

  以上,結核の消毒法について述べたが,こと結核菌においては,薬品による消毒は一般に考えられているよりも効果が弱く,あまりあてにならないのも事実である.したがって,患者材料や実験材料のような結核菌を大量に含んでいることがわかっているものを,飛散を防ぐため高濃度の消毒液に投入するのはやむを得ないが,手洗いや衣類の消毒に薄い消毒液を用いるのは,あまり合理的とはいえない.結核菌が熱や光に弱いことから,できるだけ物理的方法で消毒ないし滅菌することが望まれる.さらに結核症は消化器伝染病と異なり,器物,衣類等に付着した菌による間接感染は幼弱者や衰弱者を除き,稀とされている.このような観点から,白衣は80℃の高温洗濯で,汚染された器具は高圧蒸気(121℃)で30分滅菌すれば良い.手洗いはブラシを用いて皮脂とともに十分洗い流す.

 一方,医療従事者のなかに排菌者を隔離することを差別することと取り違えている場合があり,医事紛争の原因になっている.肺結核と診断され,抗結核薬を服用1ヵ月以上経過し,排出菌が耐性菌でなければ,感染性はほとんどないとされている.徒に患者差別をするのは無用であり,むしろ注意すべきは,排菌の疑いがありながら,適切に診断されず放置されている患者,および結核治療2週以内の排菌患者が感染源として危険であることを認識すべきである.

参考文献

1 石橋凡雄:結核の院内感染,化学療法の領域 5;632〜638(1989)

2 本宮雅吉,他:ICUと結核,ICUとCCU 14;1019〜1015(1990)

3 青木正和:結核をめぐる諸問題(1),結核63;33〜38(1988)

4 森 亨:肺結核と非定型好酸菌症Q&A.日常臨床のための呼吸器感染症.176,現代医療社,東京(1993)             

  

5 工藤祐是:結核菌.結核病学 基礎・臨床編,25頁,財団法人結核予防会,東京(1987)

6 森 享:ツベルクリン反応検査.結核予防会(1988)

7 森 享:結核,非定型好酸菌症.呼吸器診療のための規約と基準.136〜   153(1995)

追記

1)当院における最近の結核に対する対応

 いままで,ツ反やBCGなどは病院の正規職員に対して実施してきたが,結核の感染予防を考えると結核患者に接触する機会のある従事者に対象を広げるべきである.近年,病院の経営合理化,効率的運用のため,業務の一部を民間業者に委託したりすることが増えてきている.以上の状況に鑑み,当院では正規職員のみならず,パート職員,民間業者への業務委託派遣職員に対しても,院内感染マニュアルの対象とした.ツ反やBCGがどの程度の予防効果があるかの議論は別として,医療に従事する職員が結核院内感染についてより一層認識し,職員個々がユニバーサルプリコーションの考え方を理解する上で,当院として今回の対応が意義のあるものと考えている.

 また,当院では院内感染対策実行委員会が毎月,各部署のラウンド(院内職場感染対策監査)を実施し,院内感染対策の実施状況を病院当局に報告しているが,その対象が主にMRSAが中心となっており,結核院内感染も念頭に置く必要がある.

2)院内感染対策の普及について

 院内感染は今や社会問題にまでなっているといっても過言ではない.学会関係者や政府機関も院内感染対策に取り組んでいるが,現場にどの程度危機意識がいきわたっているのか疑問である.個人的には,看護職員や,検査技師より医師自身がまだ十分感染対策が徹底していないのかもしれない.医師は危機感は持っているが,感染対策を十分してもなおかつ院内感染が発生してしまう経験,可能性を知っているからかもしれない.しかし,この問題は現場の皆で少しでも院内感染を減らそうという意識をもって対応しないと前進はない.

 以下に,結核の院内感染対策に関する参考図書を掲載した.

1.院内感染対策テキスト.監修:厚生省健康政策局指導課,編集:日本感染症学会.ヘルス出版.3000円.

2.特集.院内感染.日本内科学会雑誌8月号,1993年

3.緊急特集.いまナースが危ない!!.院内結核感染対策.月刊ナーシング11月号,1999年


結核予防会ホームページ
結核の地域別発生状況,update情報あり

Top Page For Doctors For Patients Link Lists emphysema CT criteria Lecture