Top Page For Doctors For Patients Link Lists emphysema CT criteria Lecture

慢性呼吸不全とは


呼吸不全の自己管理と日常生活上の注意----岐阜市民病院呼吸器科

気管切開チューブ(レティナ)ガイド


はじめに
 低肺機能すなわち呼吸機能障害は,その大半が不可逆性の肺構造の破壊〜変化により,完全に治癒することはまず期待できない.従って,低肺機能の医学的管理,日常生活管理の第一義的目標は,残された肺機能を可能な限り有効に機能させ,少しでも制限の少ない生活を有意義に送ることにある.本稿では,まず,呼吸機能障害による入院(その大半は,慢性呼吸不全の急性増悪であるが)から退院までの治療過程の概要について簡略的に解説し,さらに,退院後または入院を要しない呼吸機能障害とつきあいながら,いかに自己管理をおこない,日常生活において注意をしていくかを中心に述べる.

1.呼吸器のしくみと呼吸機能障害をきたす疾患
 呼吸器は肺が膨らんだり縮んだりを繰り返すことにより,空気中の酸素を取り入れ,体内の二酸化炭素を排出する大切な働きをしている.呼吸器には,吸ったり吐いたりしたときの空気の通り道である気道系と,吸い込んだ空気から血液中に酸素をとりこみ,一方で血液から二酸化炭素を排泄する役割をもった肺胞系からなっている.呼吸機能障害はこの2つの働きのいづれか,または両方が十分に機能しえなくなったときに発症する.
1)慢性肺気腫
 慢性肺気腫の大半は,長年の喫煙によって,酸素を取り込む役割をはたす肺胞が,破れて癒合することにより発現する.そのほかに先天的にα1-アンチトリプシンという物質が先天的に欠損していたり,肺結核や肺炎が治って収縮した後に,残された肺がその収縮を補うようにして肺が伸びきってしまう(代償性肺気腫)場合もある.いずれにしても,肺が使い古したゴム風船のように伸びきってしまい,力強く縮むことができないため,肺胞への空気の出入りが悪くなり,息切れが現れる.
2)慢性気管支炎,び慢性汎細気管支炎,気管支拡張症
 これらの疾患は,慢性下気道疾患で,空気の通り道である気管支の壁が厚くなったり,潰れ易くなることにより,痰が溜まりやすくなり,空気が通りにくくなることにより,息切れが現れる.
3)肺結核後遺症
 結核の治った部分の肺が縮んだり,肺を被っている胸膜が厚くなったり(かつて肋膜と呼ばれていたもの),あるいは手術による胸郭の変形により,肺が十分に膨らむことができず,必要なだけの空気が出入りできない状態である.
4)塵肺,肺線維症(間質性肺炎)
 肺胞と肺胞の間に,線維(本来組織と組織をつなぐような丈夫で伸びにくい物質)がたくさんできて,このために肺全体が硬くなって縮んでしまい,膨らみにくくなることにより,空気が出入りできなくなり,さらに線維が邪魔をして,酸素を血液中に取り込みにくくなる病気である.
5)その他
 そのほかにも,慢性的な気管支喘息,肺癌,肺胞蛋白症,種々の肉芽腫症などでも,呼吸機能障害をきたすことがある.

2.入院から退院まで
1)呼吸機能障害はいつやってくるのか
 呼吸機能障害は突然にやってくるものではなく,長い年月をかけてじわりじわりと形成されてくる.すなわち心筋梗塞や脳卒中のように,何の前触れもなく突然おこるのではなく,「若い頃に比べて,少し走ったり,階段を急いで登ると,息切れや動悸がする」といったような何気ない症状からはじまる.この時期に呼吸器専門医療機関を受診すれば,早期に病気を発見でき,早い時期から呼吸機能障害に対する対策をたてることが可能である.しかし,多くの呼吸機能障害を有する患者さんは,検診で発見されて呼び出されるか,「休んでいても呼吸が苦しくてたまらない」ような重症になって受診しているのが実状である.
2)発症から入院まで
 救急入院,緊急入院で最も多いのが,慢性呼吸不全の急性増悪といわれるものである.このような場合,既に呼吸機能障害は完成していて,病気の診断がついているが,気道感染を合併することにより,急に呼吸困難症状が増強する.すなわち,ただでも低下している呼吸機能が,感染によって肺胞や気管支に分泌物が貯留して,より機能が低下し,酸素不足となって,息切れが強くなるのである.場合によっては,二酸化炭素が血液中に溜まって意識がなくなってしまうことがあり,こうなると生命そのものが危険にさらされることになる.
3)集中治療室にて
 厚生省呼吸不全研究班の基準によれば,動脈の中の酸素の量が60mmHg以下の時に呼吸不全と呼ぶことになっているが,意識低下をきたした場合は,呼吸不全の中でも重症中の重症で,直ちに気管に管をいれて,レスピレータと呼ばれる機械をつけて人工呼吸をしなければならない.もちろんほとんどの場合,この治療はICUとかRCUと呼ばれる集中治療室で行われる.気管に管を入れるため,口から食事をとることができないので,心臓近くの血管の中へ管をいれて(中心静脈栄養),栄養分を補ったり,鼻から胃まで管を入れて栄養剤を注入する.気管支に痰が溜まっていれば,吸引器や気管支鏡を用いて痰をとることになる.これらの治療は医師や看護婦にとっても大変な仕事であるが,いちばんつらく,苦しく大変なのは患者さん自身であり,次に大変なのが,心配して付き添っている家族であるのは言うまでもない.したがって,自分自身の病状,病態をよく理解し,このような状態になる前に早めに医療機関を受診することが大切である.
4)人工呼吸器からの離脱と呼吸リハビリテーション
 自力である程度の呼吸ができるようになると,少しずつ機械による呼吸を減らして,患者さん自身の自発呼吸を増やし,最終的にレスピレータなしで,動脈血中の酸素の量が維持できるようになれば,管を抜くことができ,口から食べ物を摂取することも可能となる.しかし,まだまだ自力で生活することはできないため,酸素吸入をしながら,呼吸リハビリテーションといって,呼吸訓練をする必要がある.これは,余計な力を入れずにリラックスすること(リラクセーション)から始め,口すぼめ呼吸,仰臥位腹式呼吸,座位,立位腹式呼吸,歩行訓練,階段昇段訓練と段階を追って進めてゆき,効率の良い日常生活動作を身につける.この間,同時に呼吸機能検査,心機能検査,心臓カテーテル,運動負荷検査など,患者さんの呼吸,心機能状態,運動予備力,合併症の有無を調べる.
5)退院へ向けて
 慢性呼吸不全の場合,生活の質を向上し,日常生活範囲を広げるためにはどうしても酸素が必要になってくる.厚生省呼吸不全研究班の慢性呼吸不全の定義を満たす場合,健康保険を使って,自宅で酸素を吸うことができる(在宅酸素療法,Home Oxygen Therapy;HOT).従って,退院前に,酸素濃縮器,高圧酸素ボンベ,液体酸素ボンベ等の取扱い,保安維持,適切な酸素吸入量の理解など修得する.退院後は,原則として毎月動脈血中酸素量のチェックを医療機関で受けることが必要である.

3.自己管理と日常生活上の注意
1)日常生活の注意
a)体調を保つために注意すること
 慢性呼吸器疾患があると,今までに述べたように動脈の中の酸素の量が不足し,このために疲れやすくなり,病気に対する抵抗力,特に感染に対する抵抗力が弱くなる.−−−病原菌はまず弱者を狙う−−−.従って常に良好な体調を保つために以下のことに注意する必要がある.
i)季節の変わり目など,気温が大きく変化するときなど,健康な人より風邪をひきやすいので,風邪などの感染症に特に注意が必要である.風邪をひくと,発熱,気道炎症のために,体力を消耗し,風邪にひきつづいて呼吸器二次感染症と呼ばれる細菌性の下気道感染症となる危険性が非常に高い.−−−たかが風邪,されど風邪−−−.これらに対する対策として,
 うがいの励行(口の中や気道を清潔に保つ.うがいは塩水でも十分であるが,薬局薬店で販売している「イソジンうがい薬」を使用すると,さらに消毒効果がある.)
 ときどき部屋の換気をする.
 風邪をひいている人に近づかないこと−−−君子危うきに近寄らず−−−.(風邪はウイルスが原因であるが,風邪をひいている人の吐いた息を吸い込むと,より感染しやすい.風邪をひいている人には近づかないことが大切であるし,風邪をひいているひとと面と向かって会話しないことも大切である.外出するときは,大勢の中では誰が風邪をひいているかわからない.このようなときはマスクを着用するのも工夫の一つである.マスクを着用する際は,できれば市販のマスクをそのまま着用するのではなく,マスクと口の間にさらに厚めのガーゼをはさむと尚よろしい.)
ii)体や身の回りを清潔に保つこと.体の表面などに付着しやすい表皮ブドウ球菌や,黄色ブドウ球菌は,健康な人にとっては何でもない病原体であるが,慢性呼吸器疾患のある患者さんにとっては,肺炎や気道感染の原因になりうる.
iii)十分な休養,栄養,睡眠をとり,不規則な生活や不摂生を避けて体力を維持するように心がける.
iv)空気の汚れているところ,ほこりの多いところはさけること.
v)急激に温度が変化するような場所への移動は避ける.冬に外出するならば,十分な防寒具を着て外出すべきであるし,夏ならば急に極端な冷房の入っている場所へ入らない方がよい.
vi)通常より痰の量が増えたり,痰の色が透明から白や黄,褐色に変化した時,また熱や咳,息切れなど呼吸器症状がいつもよりひどいときは,気道感染を起こしている可能性が高い.このようなときは,早目に医療機関を受診することが望ましい.−−−早期発見,早期治療.−−−思い立ったが吉日,黄色の痰がでたら受診日−−−.
b)入浴について
 入浴は身体を清潔に保ったり,疲労回復のために,特に日本人の生活習慣の中においては大切なことである.ただし,入浴すること自体が相当の酸素を消費する行為であるので,以下のことに注意されたい.
i)在宅酸素療法を受けている患者さんは,面倒でも必ず,酸素吸入をしながら入浴すること.体を洗うこと自体も酸素を消費するが,湯船につかると,胸に水圧がかかり,呼吸運動が圧迫されるので,一定の空気を吸い込むために余分なエネルギーが必要となる.したがって,入浴中こそ酸素吸入が必要である.ii)体の調子の良い時間を選んで入浴すること.食事の前後1時間は入浴を避けること.体調のすぐれないとき,息切れが強い時は,入浴を取りやめるか,シャワーや体を拭くだけにする.−−−息切れは体の黄信号−−−
iii)体力の消耗を避けるために,熱いお湯,新湯は避け,短時間の入浴にすること.浴槽に浸かっていて急に立ち上がると,起立性の低血圧が起こってふらつくことがあるので,あわてずゆっくり確実に浴槽からでること.−−−石橋を叩いて渡る−−−.当然のことであるが飲酒をして入浴することは厳禁.−−−飲酒運転は免許停止,飲酒入浴は一生禁止−−−.なお,風呂場に椅子を置いたり,手摺をつけると,安全で,体力の消耗も軽減できる.
iv)入浴後は湯冷めをしないように,早めに髪や肌を乾かし,衣服,寝巻きをきて,ゆっくりと休むのがよい.床入り前の"一杯"はほどほどに.
c)睡眠について
 睡眠は十分にとるように心がける.そのためには,日中に適度に運動することも大切である.不眠が強いときには睡眠薬,安定剤等を使うこともあるが,睡眠薬にしても安定剤にしても,その副作用として呼吸抑制作用(呼吸の働きを抑えこんでしまう作用)があるので,使用するときは必ず医師の指示,処方を受けるようにしたい.特に,肺気腫,慢性気管支炎,び慢性汎細気管支炎,気管支拡張症など二酸化炭素が血液中にたまりやすい病気では,睡眠薬の使用により,さらに二酸化炭素がたまり,意識状態が悪くなることがあるので細心の注意が必要である.
d)日常生活上の身の回りの工夫
 余計な体力,酸素の消耗を避けるために,以下のような工夫をすることも一つの方法である.
i)服装.ボタンやホックを前で留めるような着易いものがよい.また医療機関を受診するときなどは,診察時に脱いだり着たりする必要がない様な伸縮性の良いポロシャツがよい.ポロシャツだと上に上げるだけで診察でき,診察前後に慌ててボタンを外したり,留めたりする必要がない.女性の場合,和装は帯で胸から上腹部を締め付けることになるので,腹式呼吸が難しくなる.できれば洋装で,しかも,ズボンやスカートは,腰骨のすぐ上で留めるような腰丈の浅いものが望ましい.
ii)着替え.椅子などに座って着替えをする.下にかがむ回数を少なくするために,座って足を組んだまま,靴下,下着,ズボン,スカートを着けるようにする.
iii)寝具,トイレ.寝具はベッド,トイレも洋式の方がよい.和式トイレの場合は,簡易洋式トイレを使う方法もある.
iv)整理整頓,家具配置.衣服,食器などは取り出しやすいように普段から整理しておくと良い.在宅酸素療法を行っている患者さんは,酸素供給器(酸素ボンベ,酸素濃縮器)の設置場所から酸素チューブの届く範囲に効率よく家具を配置するとよい.
e)自身の呼吸機能に合わせた生活パターン
 呼吸機能障害がある以上,健常人を比べて運動能力にハンデイを負っているのは紛れもない事実である.しかし,本来生活様式は個人個人で独立したものであり,自分自身の運動能力にあわせた生活パターンを築けばよいのである(もちろん,時には,家族,社会の協力が必須であるが).要するに,無理せずマイペースで生活する事である.余計な意識をする必要はなく,自然体であわてず,ゆっくり,息切れが強ければ休息し,息切れがよくなれば再開するといった調子でよい.−−−スロー アンドステデイー,ゆっくり慌てず確実に−−−.
i)余裕をもった生活.一日に必要最小限何をするのか決めておくのもよい.時間のかかる仕事は,十分な期間を設けて取り組み,予定通り計画が実行できなくとも,無理せず次の日に延ばすような余裕がほしい.
ii)体調,体力にあわせて.自分の体力,体調に見合ったことからまずはじめる.最も体力があるとき,調子のいいときに,いちばん大切な仕事,最も根気のいる仕事をする.この時も,調子がいいからといって,決して無理をしてはいけない.
iii)適当な休息
 適当な休息をとり,疲れを残さないように注意する.自分でできないことは,誰かに協力してもらうようにする.呼吸機能障害にとって−−−息切れは黄信号,休息はなによりの薬−−−.

2.食事に関する注意
 誰にとっても食事というのは生活のなかで大きな楽しみである.その一方で,慢性呼吸器疾患の患者さんでは,食欲が減退し,体重が減少していくことが多い.しかしながら,体調を保ち,感染に対する抵抗力をつけ,呼吸に必要な筋力を維持するには,十分な栄養が必要である.食べやすい調理をする,一回あたりの量を減らして,食事回数を増やすなどの工夫をして栄養が不足しないようにする.また栄養をとるとともに,その内容が,バランスのとれた,消化のよいものであることも大切である.いろいろな食品を含んだバランスのよい食事をとることは,体力を向上させ,病気,感染に対する抵抗力を高め,また精神的安定にもつながる.夕食後の満足感,適度な血糖値の増加は入眠しやすくなり,十分な睡眠をとることにつながる.ただし,食べ過ぎや肥満は,お腹の中の圧力が増えて,胸と腹を分けている横隔膜を胸の方に圧迫し,呼吸がしにくくなるので,よけいに息苦しくなるので,ほどほどの量の食事にすることが大切である.−−−腹八分目−−−.

a)食事時の注意
i)吸入酸素量
 在宅酸素療法を行っている患者さんでは,患者さん毎に,食事時に必要な酸素の流量が異なるので,主治医の指示がある場合は,必ず指示どうりの流量に切り替える必要がある.基本的に,食事をするときは,入浴と同様,眠っているときや休んでいるときより体力,酸素を消耗しやすい.
ii)腹が張らないように
 炭酸飲料,豆,芋は腸の中でガスが発生しやすく,腸の中にガスが溜まると腹が張って,横隔膜を胸の方へ押し上げるので,呼吸に悪い影響を与えやすい.これらの食事は控えた方がよいであろう.
iii)お酒は?
少量の酒は食欲増進につながるので構わないが,適量を越すと息苦しくなり,動悸が出現することがあるので,注意が必要である.また入浴前の飲酒は,のぼせたり,動悸,起立性の低血圧の原因になるので好ましくない.またビールやシャンパンなど炭酸ガスの入ったものは,先に述べたように腹が張るので避ける.
iV)食後の休息
 食事はゆっくり,リラックスして家族と一緒に楽しみながらするようにしたい.食後は,消化吸収をよくする意味でも,十分な休息をとる必要がある. 

3.禁煙
a)タバコの害について
 喫煙は慢性呼吸器疾患の大きな原因であり,肺気腫や慢性気管支炎では統計学的にも,喫煙が原因であることが明らかにされている.喫煙を続けると,肺気腫がよけいに悪化し,喘息発作を誘発し,さらには呼吸器感染症をおこしやすくするなど,呼吸器そのものに悪い影響を与える.さらに呼吸器のみにとどまらず,循環器系では,動脈硬化,心筋梗塞,狭心症,脳卒中の原因になることは,よく知られているし,消化器系では,胃の働きが悪くなり,胃潰瘍になりやすくなる.最も怖いのは,肺癌,咽頭癌,舌癌,食道癌の誘引となることである.タバコの箱の側面に書いてある「あなたの健康を損なうおそれがありますので吸いすぎに注意しましょう」というのは,呼吸器疾患患者さんにとっては正確ではなく,実は「あなたの健康を間違いなく損なうので,絶対に吸ってはいけません」というのが真実である.
b)禁煙することの利点
 第一に先に述べたような病気になる危険が減少する.胸部の不快感がなくなり,咳が少なくなり,楽に呼吸ができるようになる.また禁煙が成功すれば,自信につながり,体調の自己管理の面からも役に立つ.禁煙により食欲が増し,栄養状態も改善する.ただし,肥満のある人は,太りすぎに要注意.
c)タバコが吸いたくなったら
 「待って,考えて,行動する」ことが大切である.まず「待て」と心の中でいってみる.なぜ自分が禁煙しているのかをよく考え,「自分はタバコの誘惑に勝つことができる」と言い聞かせる.また,歩き回る,手を絶えず動かす,深呼吸する,水やお茶を飲むなどいろいろ行動することで紛らわせる方法もある.それでもどうしても止められなければ,禁煙ガム(ニコレット等)があるので,医療機関で相談してみるのもよい.
d)禁煙を成功するために
i)十分な休息,睡眠
ii)バランスのよい食事,十分な水分摂取
iii)タバコを吸いたくなるようなストレスの多い環境はできるだけ避ける.どうしても避けられない場合は,タバコの誘惑に対処する方法を繰り返し頭の中で確認する.
iV)一度タバコの誘惑に負けても,すぐに再挑戦すること.
v)家族の協力
 いくら自分自身が禁煙しても,周りに喫煙者がいれば,その煙を吸ってしまい,禁煙の意味がなくなってしまうので,家族も一緒に禁煙を始めるなど,家族が一丸となって協力していく体制が望ましい. 


なんでも質問コーナー

 以下の質問は大勢の低肺機能患者さんから寄せられた質問に答えたものである.人各々病状も呼吸機能も生活様式も異なり,普遍的で適切な解答は有り得ないが,参考になれば幸いである.
質問1.同じ様な呼吸機能障害の患者さんでも,痩せて,健康な頃より随分体重が減ってしまった患者さんと,痩せようと努力してもどんどん太ってしまう肥満の患者さんがあります.どの様に違うのでしょうか.また各々,痩せと肥満に対する対策を教えてください.
 一般的には,慢性呼吸不全があると,栄養状態も悪化して痩せてくるのが普通ですが,中には呼吸不全があるにもかかわらず,肥満で困っている患者さんもいます.実は慢性閉塞性呼吸器疾患(肺気腫,慢性気管支炎等)にも,痩せるタイプと太るタイプの患者さんがあって,有名な呼吸器学の英語教科書でも,ピンクパッファー,ブルーブローターと分類されるくらいです.難しい分類がどうであれ,極端な痩せも肥満も望ましくはありません.痩せている患者さんで,しばしば呼吸不全が急に悪くなる人は,その度に食欲が落ちて栄養状態も悪化し,それでも日常生活のために動かなければならないので,さらに痩せてしまう,そんな悪循環の繰り返しです.一般的に,糖尿病や高脂血症を合併していない限り,バランス良く十分な栄養をとってもらいたいものです.慢性呼吸不全の入院時の治療は呼吸リハビリテーションと栄養療法であると古くからいわれています.息切れがするのについ無理をして運動してしまうことはありませんか.そんなとき,運動して疲れたにもかかわらず,今一歩食欲がわかないことがあるでしょう.一般的に極端な低酸素状態では,体の諸臓器も十分に機能することができず,日常生活をするうえで各臓器がうまく歯車が噛み合わないような状態になってしまいます.普通はこんな状態では,食欲がわかず,たとえ無理に食べても消化管も十分に機能していないので,消化・吸収・代謝ができず,食べたものが栄養にならないのです.適度な運動は重要なことですが,過度な運動は避けるべきであり,息切れを感じたら休憩すべきです.いつも息切れを感じるようなら,薬(のみ薬と吸入薬)や在宅酸素療法が必要でしょう.
 一方,痩せようと思っても,息切れがあるわりに食欲が旺盛で,肥満状態の患者さんもあります.基本的には,肥満は栄養摂取量と運動量のアンバランスから起こるわけですが,人各々の体質,生活環境により程度は異なります.体質と言ってしまえばそれまでですが,このように肥満となる患者さんの生活を細かに観察すると,栄養状態はよいが,息切れするためにあまり運動しない→運動しないから太る→太るから少し動くだけで息切れがでて,余計に運動しない→さらに肥満になる,といった悪循環が繰り返されているようです.多分,息切れに対する感受性が高く,低酸素血症に対し,敏感に息切れを感じるのでしょう.こういった患者さんは,特に肺気腫の患者さんによくみられる傾向があります.今は肥満の薬もありますが,よほどの肥満でない限り薬を使うべきでなく,適度な運動で肥満を治すべきです.歩いたり,体操をしただけで息切れが現われるようなら,座ったままで手足の屈伸運動をするとか,読書,書き物,編み物などをしてください.息切れがあるからといって一日中ぼーっとしていると余計に肥満になります.一日中脳を使っているだけでかなりのエネルギーが消費されるものです.また,食事は炭水化物を控え,蛋白もバランス良く摂取し,できれば腹八分目にとどめておくのが良いでしょう.

質問2.肺結核後遺症ですが,2000m以上登ると呼吸困難になるし,早足歩行や坂道ではすぐ息切れがする.どうしたらよいか.
 結論から先に述べると,質問の方は,呼吸機能障害があるにもかかわらず,非常に健康的で理想的な生活を送っておられるようです.地球上では,標高が高くなるほど,大気は薄くなり,それにあわせて空気中の酸素の量も低下します.健康人でも,3000m以上の登山をするときは,訓練が必要ですし,訓練した者であっても,急に高地に行くと,高地性肺水腫といって呼吸困難に陥ります.人間の体のしくみからいえば,2000m以上登れば呼吸困難が出現するのは当たり前のことなのです.また,早足や坂道で息切れが出現するのも,結核で肺が破壊されていれば,肺の予備力が低下しているので当然のことと考えられます.一旦破壊された肺が元どうりになることはないので,自分自身の肺と上手につきあっていくことが必要なのです.息切れを悩むのではなく,息切れしない程度に,休み休み運動してください.登山をするときも,健康な人よりもじっくり時間をかけて,休み休み登ってください.休んでも呼吸困難が出現するときは,それが限界ですので,無理をしないでください.ただ高い山に登るのだけが登山ではないような気がしますが・・・.因みに私自信は若い頃3000m級のヨーロッパアルプスでスキーをしたことがありますが,高地性肺水腫となり大変苦しい思いをしたので,現在は200〜300m級の山を花木を眺めながらぶらぶらトレッキングするほうが好きです.

質問3.肺結核後遺症ですが,風邪をひいたときの生活の仕方を教えてください.
 個人的な意見ですが,風邪をひいたときの生活を心配する前に,まず風邪にならないように気をつけてください.風邪はウイルスによって感染するので,細菌のように抗生物質で治すことはできません.現在風邪のウイルスを殺す薬は市販されていないのです(インフルエンザウイルスに対する薬は現在開発中であと数年で市販されるでしょう).不幸にして風邪になってしまったら,1)暖かくして良く睡眠をとり,2)規則正しく栄養をとり,3)うがいをし,4)外出を控え,5)呼吸器科医に対症薬(発熱,のどの痛みには消炎鎮痛剤,咳には鎮咳剤,痰には去痰剤といった具合に,普段からかかりつけの呼吸器科医に相談するのが望ましい)を処方してもらう,といったことでしょう.しかし,大切なことは予防です.普段から季節のかわりめや,冬には風邪になりやすいことを認識し,規則正しい生活,バランスよい食事,十分な生活,外出時の防寒など,気をつけるとともに,家族などが風邪をひいたときはマスクで予防し,近くで会話しないなどの注意が必要です.

質問4.診察をうけた医院によって診断やみたてがばらばらで,心不全がある,肺がとても悪くなっている,特に悪くはない,等いろいろ言われているが,息苦しくて家事も十分できない.
 医者によってみたてが違うとのことですが,日進月歩の現代医学において,個人の医師がすべてを完全に網羅するのは不可能な状態になっています.このような状況のなかで,医院を開業する医師は,家庭医として広く浅く診療したり,内科の中でも,循環器科とか消化器科とか神経内科といったようにある特定の領域を得意として,地域の中で役割分担しています.僧帽弁が逸脱しているとか,弁の動きが悪いといわれるのは,おそらくその先生が循環器を得意とし,心臓超音波検査ができるからだと思われます.一方,肺の病気に関しては,現代医療ではCTやMR,多項目呼吸機能検査,血液ガス分析,心臓カテーテル検査などから総合して診断しています.少なくとも以上の検査は医院では実施が不可能な検査であるし,また高度の技術と高価な設備を要し,公立の総合病院でないと実施不可能でしょう.呼吸困難(息切れ)は心臓病でも,呼吸器病でも,神経疾患でも出現します.極端な場合,肥満のみで息切れが出現する場合もあります.質問の内容のみで診断を下すのは不可能であるし,正確な診断を希望されるならそれにみあった精密検査を受ける必要があります.専門医の立場からいえば,個人の医院には,待ち時間が少ない,検査が少ない,自宅から近い等それぞれの利点があり,総合病院にも長所・短所がありますが,個人の医院を「ハシゴ」するのではなく,疑問があればかかりつけの家庭医から地域の総合病院の専門医に紹介してもらうべきだと思います.最近は個人の医院も患者さんに対するサービスにに心がけており,頼めば地域の専門医を紹介してもらえるはずです.

質問5.在宅酸素療法を受けていますが,酸素不足によって身体のどの機能がどの程度障害されるのか教えてください.
 非常に難しい質問です.というのは,低酸素状態によって起こる障害はいろいろ知られており,基礎疾患(低肺機能となったもともとの疾患)によって,障害の出現のしかたも違うし,程度も様々です.また十分解明されていないことも多々あり,この質問に答えるだけで医学書が一冊書けるくらいなのです.私も,しばしば医師を対象に講演したりしますが,このテーマだけで数時間を要します.主な障害にしぼって以下に要約します.
一番よく知られているのは,低酸素状態が長く続くと「肺性心」といって,心臓に負担がかかってきます.症状としては,顔や足がむくんだり,不整脈がでたりします.重症の肺性心は心電図でもわかりますが,一般的には入院の上,心臓カテーテル検査を受けると詳しく調べることができます.肺性心は心臓でも主に右心系(右の心臓:右心室・右心房のこと)の障害ですが,進行すると左心系(左心室・左心房)にも障害があらわれます.この頃には,血圧低下,心拡大,動悸も現われてきます.
 また,前にも述べたように,消化管の運動・消化・吸収も障害されるので,便秘になったり,痩せたりします.肺性心により肝臓も腫れるので,肝障害が出現することもあります.
 多少の低酸素では脳神経が障害されることは少ないようです.慢性呼吸不全があるからといって,極端なボケがないのは,人間の体が,低酸素になっても脳に酸素を送ることが最優先されるからです.しかし,極端な低酸素が長く続くと,神経質になったり,性格がかわったり,物忘れがひどくなったりします.さらに低酸素が進むと,意識低下が出現します.
 在宅酸素療法は,これらいくつかの臓器の障害を少なくして,より人間らしい生活を送れるように取り入れられたものであり,在宅酸素を受けたからといって,もともとの肺の病気が良くなるわけではありません.しかし,低酸素による様々な障害を或る程度防ぐことはできるでしょう.一般的に安静時の動脈血酸素分圧が40torr以下になると,様々な臓器障害が出現しますが,理想的には在宅酸素療法によって,動脈血酸素分圧が60torr以上に保ちたいものです.

質問6.呼吸方法について教えてください.
 呼吸機能障害に応じて呼吸訓練をおこなうことを,呼吸リハビリテーションといいます.呼吸リハビリテーションは,基礎疾患に応じて,リラクセーション,口すぼめ呼吸,腹式呼吸,運動訓練等から構成されます.呼吸リハビリテーションご最も効果があるのは,慢性閉塞性肺疾患(COPD:肺気腫,慢性気管支炎等)です.呼吸リハビリテーションを一朝一夕で身に付けるのは不可能で,一般的には入院の上,約1ヶ月から2ヶ月かけて,毎日理学療法士の訓練を受けながら,段階をおって身に付けます.岐阜市民病院では10年前から呼吸リハビリテーションを取り入れていますが,最近は呼吸理学療法士の数も少しづつ増え,地域の中核総合病院なら呼吸リハビリテーションを受けることが可能になりつつあります.さらに,呼吸器科を標榜する医院では,通院で呼吸リハビリテーション
を試みるところもあります.


Top Page For Doctors For Patients Link Lists emphysema CT criteria Lecture