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呼吸器疾患医療事故予防マニュアル

注意:長文のためダウンロードしてから読んでください.

引用する際は,可否につき連絡してください.


はじめに

 近年,医療機関における医療事故が新聞等で報道されている.厚生省ではいち早く,大学病院等において医療事故対策マニュアルを整備し,医療事故対策につとめている.しかし,既に作成された大学病院の医療事故対策マニュアルを参照すると,以外に具体的内容がわかりにくく,一般病院の看護婦や技師,事務職員に対して使いづらいように思われる.当院でも医療事故対策マニュアルを作成しているが,当科においては,より呼吸器診療に特化したマニュアルを作成した.今後,新たに発生したケースに合わせ順次,修正,追加していく予定である.

外来診療における医療事故防止

 呼吸器領域では外来受診する患者にあっても,生命の危険をともなうような重症患者,特に呼吸不全患者が受診する機会がある.また,肺結核や重症のインフルエンザなど他の患者に感染させる恐れのある患者が受診する機会がある.以上の状況を鑑み,外来受診患者の重症度,感染危険度を考慮した診療が必要である.

1.重症患者への対応

 初診患者が来院した際,明らかに呼吸困難がある患者,チアノーゼを呈している患者にあっては,受付担当者が機転をきかし,備え付けのパルスオキシメーターを用いて,指尖脈波酸素飽和度を測定する.SpO2が90%以下であれば,直ちに外来診療医に連絡し,指示を仰ぐ.厚生省助成金研究班「呼吸不全」研究班の診断基準にもとづくI型呼吸不全とII型呼吸不全で酸素吸入治療に差異があるので,高炭酸ガス血症を伴っているか否か判断する必要がある.動脈血ガス分析が必要か否か医師に指示を仰ぐ.

 対処:血液ガス検査の結果が迅速に判断できるよう,外来看護婦は検査室に直ちに動脈血検体を搬送し,検査技師に緊急である由,申し送る.その場で血液ガス結果を待ち,結果が判明したら医師に連絡し,酸素吸入の必要性,吸入量,吸入方法の指示をうける.高炭酸ガス血症をともなう場合,高用量の酸素吸入を行うとCO2ナルコーシスを惹起するので注意が必要である.SpO2が90-95%である場合は,緊急性はないが,準呼吸不全状態が推測されるので,院内の移動は車椅子を利用してもらう様,配慮する.この際,付き添い者がある場合は,病院玄関に備え付けの車椅子を利用するよう,場所,利用方法を説明する.付き添い者がいない場合は,病院職員が院内の移動を介助する.

 重症の呼吸不全患者にあっては,起坐呼吸を呈している場合,ベッドに仰臥位で休んでもらうとかえって呼吸不全が悪化する場合がある.もともと起坐呼吸に陥っている患者では,安易にストレッチャーやベッドに休んでもらうのでなく,座位の方が呼吸が楽かどうか確認し,状況によっては車椅子に休んでもらうような,高度の知識ときめ細かな対応が求められる.

2.感染の恐れのある患者の対応

 a.肺結核:呼吸器科には患者自身が認識することなく肺結核患者が受診する機会がある.紹介状を持参し,明らかに肺結核の疑いがあり,咳嗽・喀痰を訴えている場合は,排菌患者の危険があるので,一般患者の待合いから離れてもらい,マスクをしてもらう.明らかに肺結核である場合は,外来気管支鏡室に配備してある排痰ブースに収容し,医師の指示により直ちに喀痰結核菌培養検査を提出する.この際,細菌検査伝票には結核菌塗抹検査が至急であることを記入し,併せて細菌検査室担当者に結核菌塗抹検査が至急であることを申し送る.

 b.インフルエンザ:冬季にはインフルエンザ患者が受診する機会がある.インフルエンザは感染性が強く,免疫能の低下した患者,高齢患者では感染すると容易に重症化しやすい.インフルエンザ患者の症状は喀痰咳嗽などの呼吸器症状よりも,むしろ高熱,全身倦怠感が主体である.問診時にこのような症状を訴える場合は,マスクをしてもらうと同時に他の受診患者から離れてもらう.同時に,そうしなければならない理由を患者に理解できるよう説明して同意を得る.

 c.MRSA:MRSAには保菌状態と感染状態があるが,いずれであっても癌患者や高齢者,糖尿病患者など免疫能の低下した患者に感染させると重症化することがある.すでにMRSA感染症あるいはMRSA保菌状態が判明している患者には,他の患者と接触する機会を可能な限り低減するよう,診察順や待合い場所の配慮をする.また次回受診の予約の際も,他の患者が受診しない時間帯に来院してもらうよう配慮する.この際もできるだけ当該患者に分かり易く説明し,同意を得るよう努力する.

3.患者取り違え事故の防止

 すべての診療行為,看護,介助において,常に患者取り違えがないよう,患者にはフルネームで呼びかけ,確認する.また,当院では患者数が極めて多いので,同姓同名の患者が同時に受診することもある.氏名を呼ぶとともに,診療録や基本カードを用いて,患者の表情,容貌から情報収集して判断し,同姓同名患者に気をつける.

 もし同姓同名患者を発見した場合は,診療録の備考欄に同姓同名患者がある由,記載し,次回からは氏名のほか,住所や生年月日を用いて,患者の取り違えがないよう配慮する.また,高齢者で聴力障害がある場合,他の患者を呼んでいても自分が呼ばれたと誤解して返事をする場合がある.この際は,再度患者に聞こえるよう,再確認する必要がある.聴力障害や視力障害,痴呆のある患者では,誤解が生じやすいので,診療録の備考欄に「難聴」,「健忘」等記載しておき,毎回の診療時に配慮したい.

検査における医療事故防止

 呼吸器領域における検査のうち,気管支鏡検査,経皮的肺針生検,胸膜生検,心臓カテーテル検査は,その検査の特性上,一定の危険を伴う検査であり,職員,患者双方が十分な認識をもって実施することにより,安全かつ的確な診療が可能となる.特に気管支鏡検査は呼吸器疾患鑑別の最終的診断の拠り所となる検査であるため,検査に直接従事する医師,看護婦のみならず,すべての病院職員が検査の概要を認識している必要がある.従って,本稿において,あえて気管支鏡検査の概要,手技についても詳述する.

I.気管支鏡検査について

はじめに

  気管支鏡検査は,呼吸器疾患の診断において,胸部X線,血液検査,喀痰検査,呼吸機能検査等,間接的所見からある程度,鑑別されるべき疾患を絞り込み,最終的な直接所見を得て確定診断を行ううえに,重要な位置を占めている.気管支鏡そのものの精度向上(電子ファイバースコープの登場),検査技術の向上により以前にまして,より簡便に(外来での検査も可能),より高い精度で検査が可能になってきている.また気管支鏡を用いた治療も行われつつある.

 気管支鏡検査に用いられる略号

  気管支鏡−Bronchofiber Scope;BFS

  経気管支生検−Transbronchial Biopsy;TBB

  経気管支肺生検−Transbronchial Lung Biopsy;TBLB

  経気管支細胞診−Transbronchial Cytology;TBC

  経気管支吸引細胞診−Transbronchial Aspiration Cytology;TBAC

  気管支肺胞洗浄−Broncho-alveolar Lavage;BAL

  気管支肺胞洗浄液−Broncho-alveolar Lavage Fluid;BALF

  経気管吸引培養検査−Transtracheal Aspiration Culture;TTA

1)気管支鏡検査の適応

1.胸部X線異常陰影

2.びまん性肺疾患でのTBLBやBAL

3.血痰,喀血(診断及び治療)

4.無気肺,気管支の閉塞

5.喀痰細胞診でのclassIII以上

 腫瘍マーカーの上昇(肺癌の早期発見)

6.限局性喘鳴(気管支結核,気道腫瘍等狭窄病変)

7.原因不明の反回神経麻痺

8.気管支鏡を用いた治療

 (気道分泌物吸引,気道異物摘出,気道出血の止血,

 レーザー治療,狭窄病変へのステント留置等)

2)禁忌

1.一般に気管支鏡により動脈血酸素分圧は約20mmHg低下するとされており,酸素吸入などにより,検査前動脈血酸素分圧は80mmHg以上は必要

2.重篤な換気不全

3.重篤な心不全,大動脈瘤,極度の衰弱は相対的禁忌

4.出血傾向は経気管支肺生検の禁忌

3)合併症

1.前投薬および局所麻酔薬(リドカイン)によるショック等の合併症

 予めリドカインテスト等施行

2.検査による合併症

 (a)喉頭麻痺

 (b)不整脈(前投薬に硫酸アトロピンを使用することも関係)

 (c)心停止

 (d)出血(頻度が高く,特にTBB,TBLB時に合併しやすい.悪性腫瘍,炎症疾患で出血しやすい.気管支動脈瘤,静脈瘤,AV-fistureでは絶対に生検してはならない)

 (e)気胸(TBLBで合併多い.検査後咳をさせないように,高齢者,肺気腫,肺嚢胞では肺そのものが脆弱なので特に注意)

3.検査後の合併症

 (1)発熱−−−検査にともなう気道感染により,発熱,下気道感染症,肺炎が出現することあり,BAL,TBLBでは検査後抗生物質を投与する.

 (2)低酸素血症−−−前投薬による呼吸抑制,出血,BALによる換気障害等が原因.検査前より指尖動脈血酸素飽和度をモニタリングし,要すれば血液ガス,酸素吸入を行う.

 (3)間質性肺炎(肺線維症),特に特発性間質性肺炎や膠原病を伴ったものでは,BAL,TBLB後に急速に病変が進行することがあるので適応は慎重に.

4)気管支鏡検査の手技

1.患者への説明(インフォームドコンセント)

  目的,必要性,検査内容,安全性について説明し了解を得る.

2.術前検査

  感染(慢性肝炎,梅毒,結核等)のcheck,リドカインテスト

3.術前処置

  絶飲食(当日朝より),

  鎮静剤,硫酸アトロピン注射,

  リドカイン含嗽またはネブライザー吸入

  気道内リドカイン噴霧

  準備すべきもの;a)気管支鏡,画像送信ケーブル,光源,附属品(吸引栓,吸引ピー

           ス)

          b)吸引チューブ,酸素チューブ,オキシメーター,マウスピース

          c)救急備品(挿管セット,アンビュバッグ)・薬品(輸液,止血剤,鎮

           静剤,昇圧剤,トブラシン等抗生剤)

          d)TBB用鉗子,TBC用キュレット,ブラシ,BAL用生理食塩水

           (150ml)

           生検用濾紙,ホルマリン液,細胞診用チトラート,採痰ボトル

4.気管支鏡検査(現在は挿管せず,直接マウスピースからBFSを入れる)

  検査中は酸素飽和度モニタリング

  a)気道内へ4%リドカイン注入しながら局所麻酔

  b)気道(気管,気管支)の観察と写真撮影

  c)分泌物吸引,BAL,気管支洗浄等

  d)生検(TBC,TBB,TBLB,TBAC等)

  e)合併症に対する処置(出血時の止血:トロンビン注入,止血剤点滴等)

5.術後処置

  呼吸状態,全身状態,意識状態の観察.4%リドカインを用いるためリドカイン中毒を起こすことあり.

  出血時は止血剤の投与

  気道細菌感染に対する抗生剤投与

   

5)気管支鏡による診断

1.肺癌---肺癌の気管支鏡所見は癌病変による直接所見と、癌による周囲構造の変化による間接所見に分けられる.

 直接所見;気管支壁に発生,または転移した癌による変化---直視下生検

  粘膜主体型;1)表層浸潤型,2)結節隆起型,3)ポリープ型

 間接所見;腫瘍病変による圧排,狭窄,血管怒張

  粘膜下主体型;1)上皮型,2)壁内型,3)壁外型

  その他,リンパ節腫大,癌性リンパ管症による粘膜浮腫等

 X線上腫瘤影を認め,内視鏡的に所見のない場合,X線透視下に

 TBB, TBC等を行い,組織診断する.

 リンパ節転移による粘膜下リンパ節腫大に対してTBACを行う.

2.肺癌以外の気管支腫瘍

  カルチノイド,悪性リンパ腫,癌の気管支転移,腺様嚢胞癌,気管気管支骨軟骨異形成

3.結核---気管支結核では気管支壁の1)浮腫,発赤,2)白色調結核結節,3)気管支狭窄,4)気管支壁萎縮を認める.

    肺結核では気管支壁所見は認めないため,気管支洗浄やTBBを行い,検体を抗酸菌染色する.細菌ではPCR法によるDNA診断も行われる.

4.肺炎---急性感染症では気管支内に膿性分泌物,気管支壁の発赤,浮腫を認める.気道分泌物のTTAを行い,細菌培養検査する.

5.慢性下気道感染(気管支拡張症,DPB,慢性気管支炎等)---膿性分泌物を認めるが,気管支壁は白色調,萎縮,易虚脱を認める.これらは喀血しやすい疾患群であり,生検はしない.

6.びまん性肺疾患---サルコイドーシスでは縦隔リンパ節腫大による血管怒張がみられるが,原則的に気管支壁に所見はなくBAL, TBLBにより確定診断を行う.

7.肺胞蛋白症---気管支内に米砥汁様の白色分泌物を大量に認める.

8.心不全,上大静脈症候群---循環障害による鬱血のため気管支壁粘膜血管の怒張がみられる.

6)気管支鏡による治療

1.レーザー治療;1)PDT(光力学的治療)--早期肺癌に有効

        2)YAGレーザー--狭窄,閉塞病変,良性腫瘍に有用

 レーザー以外にも,スネア,エタノール注入,ステント留置も行われる

2.気管支洗浄;肺胞蛋白症には(通常全麻下で)生理食塩水による大量頻回洗浄

  感染症では抗生剤による洗浄が行われるが,何れも血液ガスが悪化するので注意

3.異物摘出;気道内異物(食物,義歯,遊具)の摘出

4.止血術;局所出血のときは止血剤注入,気管支wedge法を行う

7)気管支鏡検査における合併症と対策

 気管支鏡検査,気管支肺胞洗浄法(BAL),経気管支肺生検(TBLB)

  何れの検査においても患者の取り違い,薬剤の取り違いをしないように慎重なる対応が必要。患者さんへの検査に対する十分な説明を主治医、検査医が十分に行うこと.また,インフォームドコンセントをとっておくこと。問診にて既往歴を聞き、特に緑内障,前立腺肥大症,心疾患,気管支喘息,アレルギーなどの聴取を行い、禁忌薬剤に注意.

 ◇出血                                 

 気管支鏡操作,ブラシ操作,TBLBなどにより出血をきたすことがある.

予防:術前に出血性素因を検査(特に抗凝固剤,血栓溶解療法を受けている患者は,事前に気管支鏡検査まで投与を中止する.また肝硬変や血液疾患を合併している場合,血小板数を予め確認しておく).大量出血時に迅速に輸血処置はできるよう血液型もチェック.

対処:気管支鏡を通してのトロンビン散布等の止血操作.吸引による気道確保,片肺挿管.ファイバースコープまたはバルーンカテーテルによる出血気管支の閉塞.出血が続く時には輸血,手術も考慮.

  ◇気胸

 TBLBにて気胸をきたすことがある。検査終了時に透視下で気胸がないことを確認する。特に間質性肺炎におけるTBLBでは気胸が契機となり間質性肺炎が急性増悪する事例が報告されている.

予防:TBLBの際、鉗子の把持により胸膜の引っぱり込みが、透視下で確認される。

対処:気管支鏡検査終了後に,立位で患側の気胸が出現していないか確認してから検査を終了する.術者は検査室内のモニターで気胸の有無を判別しにくいため,可能な限り,コントロール室の補助医とともに気胸の有無を確認したい.程度が軽い時は仰臥位安静で観察。虚脱が高度の時には胸腔ドレーン挿入、脱気等の気胸の治療を行う。この際,パルスオキシメーターで指尖脈波酸素飽和度のモニタリングをおこなう.

  ◇呼吸不全

 気管支鏡操作、BALなどで低酸素血症が認められることがある.

予防:1秒量が1000ml以下の症例,PaO2 60mmHg以下の症例では注意を要す.検査中は常にパルスオキシメーターで指尖脈波酸素飽和度のモニタリングをおこなう.

対処:術中に経鼻的に酸素投与を行う.連続吸引は行わない。酸素投与しても酸素飽和度が改善しない時は検査を直ちに中止し,呼吸管理(気道確保、呼吸の補助など).

 ◇リドカイン(キシロカインR)中毒

 咽喉頭,肺内の局所麻酔で,過剰投薬により認められることがある.

予防:術前に皮内反応テストの結果を医師と看護婦で再確認する。鏡静剤等の前投与により,患者の不安を除去する.使用量に注意して投与する.時にリスクのある症例(高齢者,肝機能障害者)には量を少なめにする.リドカイン(キシロカインR)中毒には,四肢の痙攣,不随意運動,突然暴れ出す場合と,意識低下,心拍数減少,呼吸数減少を来す場合とがある.

対処:血管確保。呼吸管理(気道確保。呼吸の補助、酸素投与等)。

  痙攣,不随意運動,暴れ出した場合,検査台やX線管球,イメージ装置に身体をぶつけて外傷を負う危険があるので,マット,毛布などを用いて,打撲を負わないよう配慮するとともに,介助の看護婦,医師が身体抑制する.この際,極度の抑制は,骨折,術後横紋筋融解の出現することもあり,外傷を負わないよう適度に四肢抑制に自由度をもたせるとよい.一般にリドカイン(キシロカインR)の代謝時間は短いため10〜20分で回復する.

  ◇末梢気管支内異物

 まれに,ブラシの先端が破損して,残留することがある.

予防:破損したブラシを使用しない.検査前に,生検鉗子,ブラシに異常がないか確認してから使用する.

対処:TBLBの要領で生検鉗子にて把持し摘出する.

  ◇誤嚥

 気道内に胃内容物,消化管分泌液が流入すると,誤嚥性肺炎,気道粘膜びらんを合併することがある.

予防:検査前に,絶飲食が確実に行われていたか,患者に直接再確認する.気管支鏡検査終了時に,気管支鏡を気道から抜管する際,気道内分泌物を吸引しながら抜管する.

誤嚥防止のため検査後2時間は仰臥位安静とし,絶飲食とする.

II.呼吸機能検査

  偶発事故防止のため結核患者で排菌の認められる患者,発熱している患者,MRSA気道感染が判明している患者,気胸のある患者,喘息発作が中等度以上で検査施行によって状態が悪化し重篤化するおそれのある患者,意識障害の認められる患者に対する肺機能検査は行わない.

 ◇低酸素血症による意識レベル低下

 予防:状態の悪い患者では検査中の低酸素血症による意識状態の悪化に注意.特に気道過敏性試験,低酸素換気応答試験,運動負荷試験などでは可能性が高く,いつでも対処できるよう複数の検者が立ち合う.

 対処:あらかじめパルスオキシメータで酸素飽和度を測定する.酸素吸入.

 ◇気道痙攣による呼吸困難または呼吸停止

予防:時に深吸気で喘息発作誘発が見られる場合がある.特に気道過敏性試験では起こる可能性が高く,いつでも対処できるよう複数の検者が立ち合う.

 ◇心臓の不整脈発作

予防:特にアミオダロン服用に関わる肺拡散能試験の場合など.不安定な患者の場合、循環器科医の立ち合いが望ましい.

 ◇気胸

予防:特にスパイロで強制呼気などの場合,気道内庄上昇によって起こり得るので,注意を要する.

 ◇末梢神経損傷

予防:動脈血ガス分析のための動脈採血の際に起こりうる.採血針が神経に触れたと思ったら(指先に走る痛みを訴える)直ちに採血中止.

対処:手のしびれが暫く残るが自然に回復する事を説明する.

 ◇鼻腔、咽頭、喉頭及び食道損傷

予防:肺コンプライアンス測定に際して,食道バルーン挿入の際に経路の諸器官に損傷を与える可能性がある.食道バルーン挿入手技検者が習熟していることが望ましい.食道疾患患者には食道バルーンは挿入しない.

 ◇汚染器具からの感染                          

予防:結核菌などの病原菌またはウイルスで汚染された器具などで検査した場合,被験者に感染が起こる危険性がある.

対処:消毒及び滅菌。患者の体液の付着するマウスピース,食道バルーンなどはその都度,所定の方法で消毒を行う.ディスポーザブルの器具については使用後確実に廃棄する.患者の呼気が通過する各配管の蛇腹などは定期的に消毒,滅菌し,乾燥させた状態を保ち,カビなどの発生に注意する.被験者についても,検査時には手を洗うなどの清潔を心がける.

 ◇β刺激剤吸入負荷試験時のトラブル

予防:次の患者には行わない.致死的不整脈発生の既往または可能性のある患者,コントロールされていない,又は不安定な心不全患者,臨床的に危険性が高いと考えられるような大動脈瘤患者,高度の高血圧.

 ◇感染

  検査後肺炎を合併することがある.また結核菌が器具および空気感染を通して,他の患者,医療従事者に感染することがある。

予防:結核菌の有無を確認し、可能性がある時はマスクを着用する。明らかに結核と判明している場合は,主治医と連絡し,結核患者用の検査機器を用いる(この場合,拡散能と等は実施できない,通常2項目(FVC,FEV,PFRのみ)実施可能.

対処:検査後の抗生剤の投与.胸部写真撮影.血液検査.

III.経皮的胸膜生検,X線透視ガイド下肺生検,CTガイド下肺生検

  検査施行に当たっての基本的注意事項は気管支鏡検査と同様である.検査部位を確認し,血管,神経,心臓に注意し生検を行う.X線透視ガイド下肺生検よりもCTガイド下肺生検の方が気胸を合併しやすい.

 ◇気胸

 肋間からの穿刺により気胸をきたすことがある.緊急のベッドサイド検査を除き,可能な限りX線透視ガイド下に実施する.また要すれば超音波検査を併用する.

予防:臓側胸膜をできるだけ損傷しないように気をつける。術後は患側肺に対しX線透視を行い,気胸出現の有無を確認する.

対処:胸腔ドレーン挿入,脱気等の気胸の治療を行う.

  ◇出血

  肋間からの穿刺により出血をきたすことがある.肺生検では喀血することがあり,穿刺の都度,患者の症状,X線透視による肺出血の有無を確認する.

予防:術前に出血性素因を検査.血液型もチェック.肋間動静脈を損傷しないよう,可能な限り肋骨上縁より穿刺する.検査前に,胸部CTを再度読影し,肺内の穿刺方向に大血管が存在しないことを確認する.聴診上,新たにラ音(coarse crackles)が聴取される場合は,気道内に出血している可能性があるので,細心の注意をはらう.

対処:胸膜生検時の出血には圧迫あるいは直接止血.肺生検における喀血には,血管確保し止血剤の点滴を行うとともに,パルスオキシメーターで指尖脈波酸素飽和度のモニタリングを行う.出血量が多く,低酸素血症を合併する場合は,気管挿管,気管支鏡による凝血塊吸引が必要である.

訪問看護における医療事故対策

 訪問看護は当院において唯一院外で診療を行う分野であり,特別に配慮が必要である.

在宅診療である故に,院内での診療に比べ,検査,治療等の機器,薬品がなく,簡便な処置具と応急薬品のみで診療せねばならない.したがって,従事する看護婦,医師も専門的知識と十分な経験を要する.特殊な業務であるため,病院は組織としてその特殊性を十分認識した勤務体系,職員配置が要求される.

訪問看護

 1)人工呼吸器管理について

    ・取扱説明書,テキストなど参照し熟読しておく.

 2)家族関係の調節.ストレス処理

    在宅人工呼吸中は以下の事象が観察される.

   ・不安の増強.

   ・円滑な家族のコミュニケーション欠如.

   ・患者・患者家族の健康問題.

   対策

    ・患者・患者家族との信頼関係をつくる.

    ・家族の負担の程度を把握し,患者・患者家族の

      ストレスを処理できるように働きかける.

    ・密接に医師との情報提供を行い,家族との代弁を行う.

肺癌化学療法における事故防止対策

 原則的に,肺癌では1種類の抗癌剤では効果が期待できず,2種類以上の抗癌剤を併用する多剤併用化学療法が行われる.この対象となる患者は,PS2までの良好な全身状態と,75歳以下であることが倫理的な了解事項となっている.特に臨床試験の対象となる患者は,最近PS1までと限定されつつある.PSとはPerformance Statusの略で患者の活動能力を客観的に評価するもので,入院時,および毎週評価すべきものである.抗癌剤はその高い抗腫瘍効果からシスプラチン(CDDP;ブリプラチン,ランダ)を中心に,他の抗癌剤を組み合わせる治療法が行われる.また,当施設が,肺癌化学療法の中心施設であることから,患者(または家族)の了解を得て,開発中の新規抗癌剤を用いる(治験)ことがある.

癌告知の問題

 インフォームドコンセントの概念もあり,化学療法を行う際は,癌告知を行うほうが円滑な治療,患者との信頼関係,法律的倫理的観点から望ましいと考えられる.ただし,家族が告知を拒否したり,末期癌で軽快の見込みがない場合はケースバイケースである.インフォームドコンセントの内容としては,

 1)肺癌の診断と組織型 (組織型によって治療法が異なってくるため)

 2)診断に至った科学的根拠(病理結果:通常気管支鏡による生検結果)と症状との因果関係

 3)癌の進行の程度 (臨床病期)

 4)全身検索から総合的に考え得る治療法

   通常いくつかの選択肢(何もしないのも選択の1つ)があるので,それぞれ説明する.

  (a)治療の内容,(b)副作用とその対策,(c)予想される効果,(d)治療は患者の意思が尊重されること

 を説明する.最近はインフォームドコンセントも書面で説明し,説明した証しとしてカルテに保存するようになってきている.また筆者は説明内容のコピーを患者に渡すようにしている.

 インフォームドコンセントを医師任せにしている看護職員があるが,看護者もいかなる説明がなされているか確実な把握が必要で,病状説明には是非同席されたい.

化学療法中の検査,注意すべきこと

 化学療法は両刃の剣であり,抗腫瘍効果の強力なレジメンほど,副作用も強い.したがって,副作用の早期発見,治療のため綿密な検査,観察が行われる.

 1.毎日行うべきもの  血圧,脈拍,酸素飽和度,食欲,尿量(特に抗癌剤投与1週間は要注意)

 2.毎週行うべきもの  胸部X線(正側),血液生化学尿検査(生化学検査を1/週,血液学的検査を1/週),PS,体重,血液ガス(放射線治療併用時)

 3.毎月行うべきもの  腫瘍マーカー(高値のもの),心電図,要すれば胸部CT,放射線治療併用者には呼吸機能4項目(症例によっては拡散能も)を検査する.

 4.化学療法終了後に行うこと  再病期分類(はじめに病期分類に行ったのと同じ検査),要すれば心筋シンチ(化学療法剤による薬剤性心筋症の有無を検索).

 5.異常時に行う検査

  a)38度以上の発熱−血培,痰培,咽頭培,下痢があれば便培

  b)白血球2000以下の時,適宜血液学検査の採血,ドクターコールし,G−CSF(ノイトロジンorグランorノイアップ)連日投与開始するか確認する.昨年示されたG-CSFのガイドラインによれば,小細胞癌は予防投与も可能であるが,非小細胞癌では,白血球1000以下(好中球500以下)か白血球2000以下で感染が合併している場合に適用を限定されてきている.原則的に抗癌剤投与日はG−CSFを投与してはいけない.放射線治療実施例では主治医に延期すべきか継続すべきか確認すること(レジメンにより異なる場合がある).

   c)血小板減少−2万以下では血小板輸血,現在血小板増血薬を開発中である.

   d)イレウス−CDDP,VDS(フィルデシン)投与で出現し易い.腹部を聴診し腸管蠕動音が聞かれない場合,逆に金属音を聴取する場合は,腹部XPおよびドクターコールすること. 便秘傾向の患者には,イレウスに至らないよう,早めに下剤(プルゼニド,ラキソベロン,グリ浣)で対応する.

  e)尿量減少−CDDPで薬剤性腎症出現.原則的にCCr60以下ではCDDPは使用しない.特にCDDP投与1週間以内は尿量減少に注意する.急速にクレアチニン値が上昇したり,急激に尿量が減少したときは透析が必要である.この時期を逸するとその後,著明な白血球減少・血小板減少が発現し,敗血症や出血を発症し死に至ることがある.

   f)下痢−充分な輸液,特にCPT−11に伴う下痢は新聞でも話題になっているが死亡することがある.当科で漢方薬(半夏瀉心湯)が下痢に有効であることを検討している(Lung Cancer 1996, T Sawa).

  g)不整脈−心電図施行.CDDP,アンスラサイクリン系抗癌剤(アドリアシン,テラルビシン)は心筋障害出現.

  h)神経筋障害ータキソールでは四肢しびれ感,関節痛,四肢痛が投与早期に出現する.痛みにはボルタレン坐薬で対応し,主治医に経口鎮痛剤(ポンタール,インテバンSPなど)について指示をあおぐ.また,漢方薬(芍薬甘草湯,牛車腎気丸)をあらかじめ内服することで,ある程度の予防効果が得られる.

 そのほかに,脱毛,食欲低下,四肢しびれ感などが出現することあり.特に脱毛と食欲低下は現在のレジメンではほぼ必発である.食欲低下の客観的指標として,体重測定や尿量が重要な目安となる.

   i)口内炎−ベプシド等で口内炎が出現する.口内炎は食欲低下につながるので,デキサルチン軟膏をこまめに塗布する.また口腔内は清潔に保つことが必要であり,高齢者や口内炎合併者ではイソジンガーグル含嗽,バリダーゼ含嗽液(当院薬局製)を考慮する.

抗癌剤投与時の注意

 原則的に,抗癌剤は医師が投与量を調整し,ボトル注入,点滴を行う.抗癌剤投与時は,投与する薬剤を予め1ヶ所にまとめ,ボトルに番号をつけておくと,間違わない.患者の取り違えのなきよう,点滴内容ラベル張り付けのほか,状況が許せば,直接点滴ボトルに患者氏名を油性マジックで記載しておく.化学療法点滴時の誤りは,重大な副作用を招きかねないので,十分注意する.基本的には医師任せにせず,担当看護婦(士)も再度確認しながら実施する(2重確認の原則).シスプラチンの点滴の仕方は,医師の指示に従い順番に行う.嘔吐の種類と発現機序も判明してきている.強力な制吐剤のカイトリル・ゾフラン・ナゼアはシスプラチン点滴の前に投与終了しないと無効である.また,抗癌剤の入ったボトルをつなぐときは,今一度点滴が洩れていないか再確認されたい.血管外に抗癌剤が洩れると,静脈炎と皮膚壊死に陥ることがある.また,点滴やサーフロー留置は主治医が実施するが,必ず担当看護婦が介助し,サーフローの留置状況や点滴の落ち具合を観察しておく.

 抗癌剤投与日に白血球減少・下痢・PSの低下があるときは抗癌剤の投与を延期する.抗癌剤投与日には早めに白血球数を確認しておく(検査結果がでていなければ検査室に問い合わせ).

 抗癌剤は点滴投与の他に,癌性胸膜炎ではダブルルーメントロッカーを留置し,胸水を十分排液した後,抗癌剤を注入する.注入後一定時間(通常4-8時間程度)クランプし,十分体位交換して抗癌剤が胸腔全体に行き渡るようにする.この目的は抗癌剤によって胸腔を癒着させ胸水が貯留しないようにすることである.癒着時には胸痛・発熱が伴うので,インテバンSPなど徐放性消炎剤を併用する.抗癌剤としては,ピシバニル,アドリアシン(ADM),シスプラチン(CDDP),ブレオ(BLM)等が用いられる.

抗癌剤投与中の精神ケアについて

 医師や看護婦にとって極めてあたりまえの点滴スケジュール,副作用,頻回の検査も,はじめて治療を受ける癌患者にとっては全く未知の世界である.癌患者は化学療法や放射線治療に自分の生死を賭け必死である.安易な応対をせず親身になって,わかりやすく納得がいくまで説明するのが癌化学療法の看護である.検査や処置を,「主治医が指示したから」とか「そういうきまりになっているから」を答えるのではなく,科学的に,なぜその処置が必要か,なぜ検査をしなければならないかを説明しなくてはいけないし,説明できるようになっていなければならない.アメリカでは患者と医師の間で化学療法に対する同意が得られたら,以後の説明,治療はトリートメントナースとかオンコロジーナースと呼ばれる化学療法専門の看護婦が行なっている.

 化学療法中の精神状態,全身状態の評価は客観的・科学的でなければならない.現在,患者生活調査やface scaleがあるのでできるだけ患者に協力してもらい毎週評価するのが望ましい.患者の一般的状態はPSで評価される.ナースの立場からPSを評価することも大切であろう.

放射線照射との併用における注意点  

 放射線治療単独では抗癌効果が30%程度しかないことから,一時,放射線治療があまり期待されない時期があったが,近年癌化学療法との併用により効果が高まることが証明されている.化学療法単独では50%程度の効果しかないが両者を併用することによりその効果は70〜80%に上昇する.併用する場合,化学療法が終了してから放射線照射を行なうより同時に併用した方が効果があることが判明している.しかし,この場合副作用もより高頻度に発現しやすい. 主な副作用は, 1)白血球・血小板減少・貧血-----抗癌剤による骨髄抑制は一過性であるが,放射線照射をしていると長期間にわたり継続しやすい. 2)放射線肺臓炎-----放射線肺臓炎は致命傷となることがあるので早期発見が重要である.胸部X線,血液ガスは週1回実施するのみなので,オキシメーターで毎日SpO2を測定し,低下に注意する.自覚症状は乾性咳嗽(空咳)や労作時呼吸困難である. 3)放射線食道炎---------放射線照射をする場合,縦隔リンパ節にも照射するため縦隔内を走行する食道にも必然的に放射線があたることになる.放射線治療後期には放射線性食道炎が併発することがあるので,予防的にマーロックスを内服させる.食道炎が極めて強いときは放射線治療の延期,照射野の縮小,点滴・中心静脈栄養が必要であり,主治医のみならず放射線治療医との連携も大切である.この際も,看護者は食道炎は永久に続くものでなく,照射終了後は次第に回復してくることを説明し,患者に無用の不安を与えないよう配慮する.最近,G-CSF(グラン,ノイトロジン,ノイアップ)を使用中に放射線治療を行なうと放射線肺臓炎が出現しやすいという報告もある.

放射線治療をおこなう特殊なケース

 原則的に化学療法と放射線照射の併用を行なうのは(1)PS2まで,(2)照射範囲が1側肺の半分以下,(3)呼吸機能・血液ガスが良好,(4)肺線維症がないことなどの条件を満たし,患者自身が承諾した場合に限られる.これは効果も強力だが副作用も強いためである.しかし,例外的に放射線治療と併用する場合もある. 1)脳転移がある場合;脳には血液脳関門があって抗癌剤が脳内に十分移行しないので放射線治療を行なう. 2)局所の癌性疼痛が鎮痛薬でコントロールできない場合. 3)骨転移による局所症状緩和のため 4)気管・主気管支に腫瘍があり放射線治療を併用しないと閉塞する危険がある場合. 5)腎機能障害等主要臓器障害があり十分量の抗癌剤が使用できない場合.

新しい抗癌剤による治療

 最近開発された新規抗癌剤は,抗腫瘍効果の増大も当然だが,むしろ副作用の少ないことを重点に開発されている.これは,現時点での化学療法の効果(併用療法でせいぜい50%程度)に比べて,悪心,食欲不振,全身状態の低下がみられQOLを逆に悪化させている可能性があるからである.今までの化学療法は原則的にシスプラチンと他の新規抗癌剤を組み合わせる治療であったが,今後高齢者やPSの不良な患者に対してはQOLを低下させない新規抗癌剤の組合せが主流になるであろう.参考までに,新規抗癌剤の概要を述べる.

1)塩酸イリノテカン(トポテシン):日本で開発され,小細胞癌,非小細胞癌ともに抗腫瘍効果が優れる.最近は,大腸癌にも用いられている.効果は優れているが,下痢が問題となっている.また,中等度の悪心,骨髄抑制も出現する.

2)パクリタキセル(タキソール):アメリカで開発され,非小細胞癌に効果が優れる.溶剤にアルコール系を用いているため,酒の弱い人は投与後2日程度アルコール酔いが起きる.また,溶剤によるアレルギーが起こるので,前日よりデキサメタゾン点滴,投与日はデキサメタゾン,ザンタック,ベナ錠の予防投与が必要なので注意する.点滴回路も専用のJMSキットを用いる.投与2-3日後から四肢しびれ感,関節痛,四肢痛が出現する.痛みにはボルタレン坐薬,経口鎮痛剤(ポンタール,インテバンSPなど)を用いる.また,漢方薬(芍薬甘草湯,牛車腎気丸)をあらかじめ内服することで,ある程度の予防効果が得られる.

 白血球が投与1週後に著明に低下するので注意する.

3)ドセタキセル(タキソテール):フランスで開発され,非小細胞癌に用いる.パクリタキセルと同系列の抗癌剤であるが,溶剤の関係で前処置不要で,神経筋障害もほとんど出現しない.しかし,投与直後のアレルギー(ショック,蕁麻疹)が出現することがあり,点滴中と点滴当日はきめ細かな観察が必要.白血球が投与1週後に著明に低下するので注意する.

4)ビノレルビン(ナベルビン):ビンカアルカロイド系抗癌剤でフィルデシンと同系列であるが,フィルデシンより消化管障害(イレウス,便秘)は少ない.投与のしかたは約50mlに溶解して側注するか点滴する.

 悪心,食欲低下,白血球減少は他に比べ軽い.

5)ジェムシタビン(ジェムザール):イタリアで開発された薬剤でエンドキサンと同系列であるが,非小細胞癌に用いられる.悪心,食欲低下が軽く,高齢者の化学療法に期待されている.放射線治療と同時に使うことはできない.副作用は軽いが,抗癌効果も少ない.

なお,このほかに現在,放射線の効果を高める増感剤,薬剤耐性を克服する薬剤,癌の血管新生を抑える薬剤等,治験が進行中であり,今後10年で癌化学療法が大きく進歩することが期待されている.

最後に  肺癌は増加の一途をたどり,しかも難治性であることから,肺癌に苦しむ患者は増える一方である.今後肺癌治療・看護も益々重要になってくる.市民病院呼吸器科で行なっている治療は,他の病院では実施していない新薬や新治療法を行なっている点で特殊ではある.しかしこれらの治療は,近い将来一般病院に普及していくであろう治療であり,それに併せて看護も進歩的であるべきである.現在の日本にはトリートメントナースやデータ・マネージメント・ナースのような制度はないが,各自が病棟ナースであるとともにトリートメントナースたらんと,自信と学究的意欲をもって看護にあたられたい.

付録

癌化学療法剤の薬品名と略語

CDDP:シスプラチン(ブリプラチン,ランダ),CBDCA:カルボプラチン(パラブラチン)

VP-16orETP:エトポシド(ベプシド,ラステット) CPA:サイクロフォフファミド(エンドキサン),

ADM:アドリアマイシン(アドリアシン),VCR:ビンクリスチン(オンコビン),

VDS:ビンデシン(フィルデシン),MMC:マイトマイシンC(マイトマイシンS),

BLM:ブレオマイシン(ブレオ),OK-431:(ピシバニール),THP:ピラルビシン(テラルビシン)

CPT-11:イリノテカン(トポテシン),TXL:パクリタキセル(タキソール),TXT:ドセタキセル(タキソテール),NVBorVLB:ビノレルビン(ナベルビン),GEM:ジェムシタビン(ジェムザール)

肺癌のTNM分類

T0:胸部X線上腫瘍を認めず

T1:腫瘍径3cm以下,葉気管支への浸潤(-)

T2:腫瘍径3cm以上,気管分岐部まで2cm以上

T3:胸壁,胸膜,横隔膜浸潤,気管分岐部まで2cm以内

T4:癌性胸水,隣接臓器浸潤,気管分岐部浸潤

N0:リンパ節転移(-)

N1:所属リンパ節/同側肺門リンパ節転移(+)

N2:同側縦隔リンパ節/気管分岐部リンパ節転移(+)

N3:対側縦隔肺門リンパ節/同側・対側鎖骨上窩リンパ節転移(+)

M0:遠隔転移(-)

M1:遠隔転移(+)

Stage I:T1N0M0,T2N0M0  Stage II:T1N1M0,T2N1M0  Stage IIIA:T3N0-N2M0,T1-3N2M0

Stage IIIB:T4NxM0,TxN3M0 Stage IV:TxNxM1

肺癌治療におけるStrategyの概要

非小細胞肺癌(NSCLC:Non Small Cell Lung Cancer)

 Stage I,II:絶対的治癒切除術、ただし術後再発が20〜30%にみられ、Chemopreventionとしての術後化学療法の比較試験が進行?

 Stage IIIA(N2を除く):比較的治癒切除術、術後再発が40〜50%あり、術後化学療法の無作為比較試験が進行?。手術単独より、術前化学療法+手術の併用群が生存期間が延長している報告もあり。

 切除不能限局型肺癌(Stage IIIA, IIIB):CDDPを含む多剤併用化学療法と放射線治療の併用--少なくとも手術単独より、手術あるいは放射線治療に化学療法を併用した群が生存期間が延長している。

 Stage IV:多剤併用化学療法により50%以上の奏功率がみられる。

  BSC<旧化療CV<新規抗癌剤+CDDPと生存期間延長している。

小細胞肺癌(SCLC:Small Cell Lung Cancer)

 限局型(LD:Limited Disease):多剤併用化学療法と放射線の併用--放射線治療を併用することによりLocal Controlが改善

 非限局型(ED:Extended Disease):多剤化学療法---生存期間問題

  --CR例については予防的全脳照射はOptional

人工呼吸管理における事故防止対策

1.気管内挿管

 気管内挿管が必要な際は,処置具があらかじめ確実に揃っているか確認する.また,緊急挿管の機会が多いため,救急カートに必要備品が揃っているか,常時確認する.緊急挿管では喉頭鏡を用いて挿管するが,待期的挿管や時間的に余裕があるときは,1)片側挿管にならないよう観察可能であること,2)気道分泌物の吸引が十分できること,の理由により気管支鏡を用いて気管支鏡ガイド下に挿管を行うようにする.

 気管内挿管が完了したら,チューブの挿入位置がずれないように,門歯から何センチの位置に固定されているのか記録する.チューブに油性マジックで印を付けておくことが望ましい.

2.人工呼吸器の装着

 人工呼吸器装着に際しては,予めテストバッグを取り付け,正常に作動するかどうか確実に確認する.気管チューブに装着した際は,ゆるみがないか確認し,容易にはずれないよう確認する.また,装着後,まず回路の空気漏れがないか確認するとともに,指尖脈波酸素飽和度モニタリングにより人工呼吸器による治療成果が認められるか確認する.

その後,人工呼吸器の設定条件を記録する.また,片側挿管に陥っている場合は,通常より気道内圧が高くなり酸素飽和度も低下するので注意する.挿管チューブの位置の最終的な確認は,胸部X線で確認するので,人工呼吸器装着後はポータブル胸部X線を放射線科に依頼する.ポータブルX線写真撮影時に挿管チューブがずれたり,人工呼吸器がはずれる危険があるので,X線撮影時は担当看護婦または医師が付き添うようにする.撮影後は速やかにX線写真を取り寄せ,主治医に読影してもらい異常がないか否か確認する.

3.機械式人工呼吸実施中の事故防止対策

 人工呼吸中の患者の呼吸状態は基礎疾患や合併症により刻々と変化する.心電図,血圧,脈拍,指尖脈波酸素飽和度をモニタリングするのはもちろん,人工呼吸器の状態,患者の理学所見にも注意する.

◇気胸

 陽圧人工呼吸実施時には気胸を合併することがある.急に,SpO2が低下したときや,気道内圧が上昇したときは,気胸を疑い,十分な聴診を行って,換気音の低下や左右差がないか確認するとともに,胸部X線で,胸腔への空気の流出の有無を確認する.

 処置:陽圧人工呼吸を実施している場合は,自然に気胸が回復する可能性は低いため,積極的に胸腔ドレナージを実施する.この際,ベッドサイドで実施することになるため,ドレナージチューブが肺穿通をおこさないよう,チューブ留置後は空気の流出音,出血の有無を確認するとともに,ドレナージチューブの位置確認のため,胸部X線検査を必ず実施する.

◇片側換気,自然抜管

 気管チューブが最初は適切な位置に固定してあっても,呼吸状態や体位交換,処置中に気管チューブがずれることがある.手前にずれれば抜管の危険があり,奥にずれると片側挿管となる危険がある.

 対処:処置や体位交換に際しては,チューブが設定位置からずれていないか確認し,早めに是正する.また,常に聴診器で呼吸音を聴取する.抜管,片側挿管となった場合は速やかな処置が必要なため,直ちに主治医に連絡し,再挿管や気管支鏡の準備を整えておく.

◇気道感染

 人工呼吸管理中は,吸引処置や,挿管チューブそのものにより,気道感染の危険が極めて高い.特に高齢者や免疫能の低下した高危険群では細心の注意を要する.

 対処:患者体温,発熱,膿性痰などに注意するとともに,前記症状を認めた場合は,気道分泌物の細菌培養検査を実施する.同時に,気道感染に対するエンピリックテラピーを開始する.

参考:empiric thrapyについて

 背景:本来,化学療法は細菌培養検査にて起炎菌を同定してから,最も適した抗菌剤を用いるべきである.しかし,起炎菌の培養,同定には2日以上を要し,止むをえず起炎菌を同定しないまま化学療法を開始する場合がある.

 empiric thrapyとは緊急的化学療法で、病状、患者背景、感染部位等から広く科学的に起炎菌を推定し、推定した起炎菌に対して最も適切な抗菌剤を投与し、起炎菌決定は同時平行で実施する。

◇人工換気不全

 人工換気不全には,1)人工呼吸器における問題,2)気管チューブから人工呼吸器までの換気回路の問題,3)患者自身の肺,気道の問題がある.これらの問題の発見と,原因究明には,専門的知識と十分な経験を要する.

対処:常に,患者の呼吸状態,人工呼吸器の作動状態を把握し,異常があった場合は,すべての可能性について異常がないか確認するようルーチンワークを意識する.人工呼吸器の異常警告ランプが点滅したら,最も多いのがfightingによる気道内圧の上昇であるが,安易にリセットせず,他に何か原因がなかったか究明するようにする.

◇停電時の対応

 停電の際は,人工呼吸器装着中の患者には致命的となるので,無停電装置が作動するまで,手動でアンビュバッグやジャクソンリースバッグを用いて,補助換気を行う.無停電装置が作動したら,電源を各病棟に配されている無停電電源(茶色の電源コンセント)に切り替える.

                            


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